咀嚼や食塊形成ができるのに、なぜ、米飯でなく全粥なのか?
今回は、『咀嚼や食塊形成ができる能力があるのに、なぜ、米飯でなく全粥を提供しているのか?』について、考えてみます。
その前に、咀嚼や食塊形成の能力を飲食してない状態で評価するにはどうしてますか?
私の場合はまず、歯列を見ます。
どのくらい残歯が揃っているか、特に臼歯が揃っているのか、残歯が無ければ義歯が適合されているかを確認します(歯茎だけで常食を食べてる方も少なからずいますが…)。
次に口唇閉鎖の程度や舌の運動を確認します。
口唇閉鎖は、流涎の有無や頬膨らましがキープ出来るか、また、触診したりしてみます。
舌の運動は左右運動がスムーズに出来るかどうかを確認します。
話が逸れますが、舌の左右運動は構音には全く必要のない動作ですよね。でも、咀嚼・食塊形成には欠かせない動作ですね。
それでOKなら、『では一度、試食してみましょうか』ということになり、フードテストを行います。
では、しっかり噛める人になぜ、あえてお粥を出すのか?
噛んでぐちゃぐちゃにしてしまえば、それほど変わらないと一般的に思われる方も多いのではないでしょうか。
しかし、STとしては、お粥にする理由があるのです。
その理由の一つは、プロセスモデル(咀嚼嚥下モデル)により説明できます。
米飯にするとお粥より咀嚼する回数が増えます。
そうなるとプロセスモデルにより、咀嚼中に咽頭に送り込まれる量も増えます。
そうなると、嚥下反射の遅延がある方(感覚が低下している方)の嚥下のタイミングのズレが大きくなります。
つまり、梨状陥凹の方まで食塊が流れ落ちた状態で嚥下が起こります(本来、プロセスモデルでは喉頭蓋谷で食塊形成されて嚥下されます)。
その結果、誤嚥しやすくなります。
もう一つは、米飯とお粥では咽頭残留の程度が違うということですね。
これはVFやVEを見ると明らかです。
『お粥より、ご飯の方がのどを通りにくい』のは、なんとなく感覚的にもわかりやすいと思います。
(ちなみに窒息の原因NO.1はお餅、そしてNO.2はご飯です。米飯は日本人の主食なので頻度が高いは当然でしょうが。)
つまり、米飯はお粥よりも咽頭残留しやすいということです。
咽頭残留しているのに、また咀嚼中にどんどん咽頭に送り込まれたら…誤嚥しやすくなりますね。
以上のような理由から、噛める噛めないの問題だけでなく、咽頭期にも有利な食形態として、窒息や誤嚥を防ぐためにあえてお粥をチョイスすることが多々ある訳です。