摂食嚥下リハビリテ―ションにおける栄養管理
摂食嚥下障害のリスクといえば、誤嚥やそれに伴う肺炎、窒息にフォーカスされがちですが、実は低栄養や脱水も大きなリスクになります。
※別記事『摂食嚥下障害の4大リスク』参照
そんな見過ごされがちな低栄養や脱水のリスクについて、栄養管理の観点から今回は書いていきます。
摂食嚥下障害による摂取量の低下は、別記事『誤嚥を疑う所見・観察ポイント』でも書いていますが、誤嚥所見としても重要な所見となります。
また、低栄養により、サルコペニアが進み、嚥下障害が増悪する。
もしくは、低栄養により、低アルブミン血症となり、食思低下が進むといったことも想定されます。
低栄養の指標としては、体重・BMIだけでなく、血液データでの総蛋白(TP)やアルブミン(Alb)の数値にも注目しましょう。
TP6.0以下、Alb3.0以下が低栄養の指標となります。
ただし、TPやAlbの数値は、肝疾患(ALT、ASTやΓ-GTPの上昇)や炎症(WBCやCRPの上昇)によっても低下するので注意して下さい。
予後予測やリハビリテーションの取り組みにも栄養状態の把握は役立ちます。
どの分野のリハビリテーションにおいても栄養管理が重要ですが、摂食嚥下リハビリテーションにおいては、特に重要となります。
なぜなら、摂食嚥下リハビリテーションでは、栄養状態が不良な方を対象とする場合が多いからです。
また、低栄養による痩せや筋力低下、食思不良に対して摂食嚥下訓練にだけに注力しても思うような成果が出ないばかりか、逆効果になることもあるからです。
ちなみに医師向けの栄養管理法の選択アルゴリズムは、下記のようになっています。
消化管は安全に使用できるか?
はい→経腸栄養
期間は?
6週未満→経鼻経管
6週以上→胃瘻・腸瘻
いいえ→経静脈栄養
期間は?
2週未満→末梢静脈栄養
2週以上→中心静脈栄養
※東口髙志、他:中心静脈栄養法(TPN)のformula、58(5)、p620、2003 より
今、患者さんがどういう栄養状態で、これからその栄養状態はどう変化していきそうかといった予測をもとにリハビリを進めていくことが重要となっています。
それによって例えば…
「今はほとんど経口摂取できてなくて末梢の持続点滴だけだけど、中心静脈栄養に切り替わったら、栄養状態の改善に伴って活気や食思、嚥下状態が上向くかもしれない」だとか…
「嚥下機能の改善は見込めるけど、時間がかかりそうだから、まずは非経口での栄養管理(経管栄養や経静脈栄養)を急いだ方がいい」だとか…
「今アルブミンが2.0以下だから、今後中心静脈栄養を行っても予後不良な可能性が高いな」
といったことを念頭おきながら、リハビリを進めていくことができます。
ちなみに経管栄養と経静脈栄養のメリット、デメリットは別記事『経腸栄養法と経静脈栄養法のメリット・デメリット』で詳しく書いていますので、よろしければご参照ください。
次に脱水ですが、
脱水の指標として血液データ上、高張性脱水(水欠乏)ではナトリウム(Na)が上昇し、低張性脱水(食塩欠乏)ではナトリウムが低下します。
また、尿素窒素とクレアチニンとの比(BUN/Cre比)が10以上でかつヘモグロビン(Hb)が上昇している時も脱水が考えられます。
経口摂取量が増えて、点滴が中止となった時が、逆に脱水への注意が必要であったりします。
経口での補水の機会がもうけられていないと自己摂取できない人は、食事に含まれる水分量や食事中の飲水でしか水分確保できないからです。
脱水も進むと嚥下障害の増悪や意識レベルの低下、場合によっては、脳梗塞(ラクナ梗塞)による新たな嚥下障害(仮性球麻痺や球麻痺、もしくは一過性嚥下障害)の発生につながります。
今まで普通に食べれていたのに急に食べられなくなった(高頻度で誤嚥するようになった)パターンは、恐らく背後に脳血管障害があると考えられ、その起因の一つとして脱水が挙げられます。
よって、脱水に注意し、例えば、リハビリ介入中にお茶を飲むのを促したり(介助したり)するだけでも違うと思いますし、自力で飲水できない方には、経口での水分摂取の機会を確保する働きかけが重要になってきます。