日常生活における高次脳機能検査の解釈と活用
今回は、高次脳機能の検査結果を日常生活にどう落とし込んで活用していくのかがテーマです。
検査には、日常生活での影響が想像しやすいものとしにくいものがありますね。
特に日常生活での影響が想像しにくいであろう高次脳機能検査について書いていきます。
内容は、
- レーヴンやコース、WAISの動作性検査に関すること
- ウェクスラーやリバーミードといった記憶検査に関すること
- ストループテストに関すること
- TMT-Bに関すること
- CATの記憶更新検査やPASATに関すること
以上、5つの項目について書いています。
まず、レーヴンやコース、WAISの動作性知能検査についてです。
復学や復職を目指す方ならもちろん大切な指標となりますが、すでに退職された高齢者の方などは知能指数を測っても意味はないのでしょうか?
いいえ、そんなことはありません。
別記事『WAIS-Ⅲにおける知能とは何か』にも書いたように動作性知能は「新しいものを学習したり覚えたりするような、経験の影響を受けることが少ない、新しい行動様式を身につける能力」を表しています。
例えば、脳血管障害により片麻痺を呈した方は、今まで無意識的に行っていた日常生活動作が、すべてが新しい動作様式に変わってしまいます。
それをスムーズに習得していくには動作性知能がどの程度保たれているかが大きなカギとなるからです。
また、もちろんではありますが、習得には動作性知能に加えて記憶も重要になってきます。
記憶検査ではスクリーニング的な記銘力検査や検査バッテリーであるウェクスラー式記憶検査、リバーミード検査などが代表的にありますね。
これらはあくまで即時記憶(短期記憶)や近時記憶を主に測る検査です。
近時記憶が明らかに低下していても手続き記憶は保たれている方は多いので、リハビリテーションでは、この手続き記憶(反復による無意識的な記憶)を活用することができます。
また、その場合も別記事『今日は何日ですか?といった声掛けの問題点』でお伝えしたようにエラーレスラーニングを取り入れると習得がよりスムーズになると思います。
例えば、移乗の際、右回りに回転してほしいのに左回りに回転しようとされる患者さんには、間違った左回りをし始めてから指導・修正するのではなく、そもそも間違いを起こさせないように予め右回りに誘導し、それを反復させるといった具合です。
誤り(エラー)が起きてから修正しても、近時記憶障害があると情報の正誤の取捨選択ができずに、逆に誤った情報、先ほどの例でいうと左回りが強化されてしまいかねないのです。
次にストループテストは、通常取ってしまう反応・慣れた反応に対して、その反応を抑制しつつ別の意識的な反応を行わなければならない検査です。
例えば、座っている状態で手に持っているペンが少し先の床に落ちたとします。
通常なら手を伸ばしつつ屈んで拾おうとするだけですね。
しかし、片麻痺があり、車椅子に座っている状態では話が変わってきます。
この場合では、前のめりになることで転倒するかもしれないため、ペンを拾う動作をする前にブレーキをかけたり、フットレストから足を降ろすといった動作を先に行う必要がでてきます。
つまり、今まで当たり前にしていた慣れた反応(動作)を抑制して、意識的に別の動作を加えていかなければならない点で、ストループテストの結果が反映されてくるのです。
続いて、TMT-Bは注意の転換やワーキングメモリーを必要とする検査です。
少し注意が逸れるとどこまでやったかわからない、車椅子のブレーキを左右かけたのにまた、片方のブレーキを外してしまうなどといったことが影響していると思われます。
最後にCATのなかでも記憶更新課題ですが、これは、話の中で要点を一時的に記憶(ワーキングメモリー)して理解する力が反映されるのではないかと思います。
つまり、複雑な会話内容の理解力に関わってくるものと思われます。
PASATになるとより高次な注意機能、高い集中力、ワーキングメモリーの処理速度、思考や注意の素早い切り替えが必要となってくるため、より複雑な内容の理解に関わってくるものと思われます。
例えば、授業や講義を聞き内容を理解したり、要点をノートにメモする場面や高齢者の方でもご本人が金銭面など含め退院計画に関わる場面では、内容の理解度を深めるために必要となる能力だと思われます。