咽頭期障害に対するアプローチ
嚥下障害の中核ともいえる咽頭期の障害に対するアプローチの考え方をシェアしたいと思います。
咽頭期の障害は、①嚥下タイミングのズレと②咽頭クリアランス能の低下の2つに集約されます。
①嚥下タイミングのズレ、これは感覚の問題で、中枢神経系の障害によって生じます。
水分など、咽頭の通過速度が速いと嚥下反射のタイミングが合わず(嚥下反射が遅延して)、誤嚥することになります。
また、食形態がアップして食塊形成のための咀嚼が増えれば増えるほど、プロセスモデル(咀嚼嚥下モデル)で説明されている食塊の咽頭への移送(stage2移送)が行われますので、これまた嚥下のタイミングがズレやすくなっていきます。
ちなみにキザミ食より一口大の方が食形態は上ですが、食塊形成のしやすさ・咀嚼回数に関しては、一口大よりキザミ食の方が不利なこともありますので、ご注意ください。
※詳しくは別記事『刻み食は本当に食べやすいのか?』をご参照ください。
②咽頭クリアランス能の低下、これは運動の問題で、中枢神経系の麻痺によるものだけでなく、サルコペニアなど様々な原因で起こり得ます。
咽頭クリアランス能の低下により、咽頭残留からのオーバーフローや一回の嚥下における食物や水分の処理容量の低下により誤嚥しやすくなります。また、窒息のリスクも高まります。
食形態が上がるほど、咽頭残留はしやすくなります。
特に米飯やパンを食べたいと希望された場合は、誤嚥だけでなく、咽頭クリアランス能の低下による窒息のリスクを考慮しなければなりません。
別記事『ゼリーにするか?ヨーグルトにするか?~嚥下食との使い分け~』にも書きましたが、例えば直接訓練やお楽しみレベルの摂食(藤島Gr3~4)において、ゼリーかヨーグルト、どちらをチョイスするか。
ゼリーはスッと喉を通るので、咽頭残留はしにくいけれど、スッと喉を通る(咽頭の通過速度が速い)ため、嚥下のタイミングが遅れると誤嚥しやすい。
ヨーグルトは、ぺっとりと喉を通るので、咽頭残留はしやすいけれど、ぺっとりと喉を通る(咽頭の通過速度が遅い)ため、嚥下のタイミングが遅れても誤嚥しにくい。
つまり、問題点として
嚥下反射のタイミングのズレ<咽頭クリアランス能の低下なら、ゼリーをチョイス
嚥下反射のタイミングのズレ>咽頭クリアランス能の低下なら、ヨーグルトをチョイス
といった感じで考えます。
実際、ゼリーでは高率に誤嚥するが、嚥下食(ミキサートロミ食)なら誤嚥を大幅に軽減できるケースも多々あります。
*この場合、嚥下食(ミキサートロミ食)とヨーグルトをほぼ同様の食形態と捉えています。
お楽しみレベルで、ご家族から持ち込み食品の希望がある場合など応用して使える考え方かなと思います。
また、嚥下反射のタイミングのズレ(遅延)は少ないが、咽頭クリアランス能の低下が著しい場合などは、食べ物より飲み物の方が比較的安全かつスムーズに嚥下できるのではと考えられますね。
このように嚥下障害の中枢である咽頭期障害を①感覚と②運動の側面で考えていくことで、的を得たアプローチが可能となります。