失語症訓練の立案ポイント
今回は、言語訓練の立案に際して、明日からすぐに取り入れられるポイントをシェアします。
大きく10項目に分けて、なるべく簡潔に伝えていきたいと思います。
ポイント1.理解から表出に繋げていく
言語機能の改善は、基本的に理解が先です。
Auditory Pointing(聴覚的指示、以外APと表記)などで音韻―語彙―意味のマッチングを強化します。
それが表出、すなわち意味―語彙―音韻に繋がる意識を持ちましょう。
AP課題では、意味システムを賦活し、表出の促通を促す狙いで、あえて低頻度語(日常ではほとんど使われない単語)を混ぜることも有効とされています。
ポイント2.理解の課題をそれだけで終らせず、表出にも繋げていく
AP課題には復唱、読解課題には音読、書字(写字)課題には音読を組み合わせて、理解だけで終らせず、表出に繋げていく意識を持ちましょう。
音読が困難な場合は、STが文字を指示しながら音声刺激を与える、可能なら斉唱する、でもいいです。
ポイント3.単語の障害レベルでも短文レベルの課題を加えていく
バリエーションの変化やモチベーションの維持を図ります。
単語レベルの障害が強い方でもむしろ動詞は汎用性が高く理解しやすいことも多いです。
例えば、動作絵のAP課題や絵付きの線結び文章完成課題などを取り入れていきます。
ポイント4.音声言語だけでなく、文字言語を加えていく
絵カードで扱えるのは、心像性の高い単語だけに限定されます。
漢字単語や文を使用することにより、より抽象的な単語(語彙)の賦活を図れます。
ポイント5.文字言語の課題に繋げるために文字と音韻のマッチングを行う
文字―音韻変換や音韻―文字変換が障害されている時、仮名文字を指し示しながら音声刺激を与える、音読的復唱(復唱時に仮名文字を提示し、指し示す)を行う、斉唱を行う、写字してもらいながらその文字の音声刺激で与える、などの課題を取り入れて文字と音韻のマッチングを図りましょう。
仮名文字の利用は、文字と音韻のマッチングに有効的です。
改善の順番は、メソッド1でも伝えたように文字―音韻変換(理解)が先です。
すなわち、仮名文字を見て、(日本語の)何の音韻かがわかるようになるのがまず重要です。
ポイント6.呼称<語想起≪自発話
自発話に繋げるために呼称や語想起の課題をしている意識を持ちましょう。
何のために呼称をしてもらっているのか、何のために語想起をしてもらっているのか、それは全て自発話に繋げるためです。
その意味で、呼称における『キューの体系アプローチ』もとても有効的です。
※詳しくは、別記事『喚語困難に対する言語訓練〜キューの体系アプローチ〜』をご参照ください。
ポイント7.漢字単語は、意味の照合・選択の促通、場合によっては音韻の照合・選択の促通にも有効的
音声提示+文字提示はより重度の失語症の方の理解を助けます。
例えば、絵カードの選択課題で、音声提示だけでは難しい場合も文字提示を同時に加えると正答率は上がりやすくなります。
また、呼称が難しければ、漢字単語の音読やかな振り(書字)課題を行うのも良いです。
語彙選択の負荷が軽減されている分、呼称よりスムーズにできる場合があります。つまりは、呼称の改善に繋げることができます。
また、主に音読みの漢字単語は、音韻のヒントを含み、音韻選択の負荷も軽減される場合があります。
音読できる単語とできない単語を比較してみましょう。そこに音読み、訓読みの違いがあれば、それを活用できます。
ポイント8.音韻バッファの障害にも文字言語を利用
聴覚的な把持や音韻の選択・配列などが障害されている場合、文字言語を利用する(書字する)ことで、音声の様に一瞬で無くなってしまわないので、セルフフィードバックをより効かせることができます。
ポイント9.文章の音読で、より多くの語彙―意味のマッチングを図る
より軽度の失語症の方には、文章を音読してもらい、その意味を理解(読解)していくことで、抽象的かつ多様な語彙の賦活を図れますので、積極的に取り組みましょう。
ポイント10.難易度の調整でやりがいや達成感を演出する
これは、基本的なことですが、最初と最後は比較的簡単かつ正答率の高い課題を行い、中盤に最も難易度の高い(負荷の強い)課題を行います。
難易度が高いといっても正答率は6〜7割は最低あるように調整すると良いでしょう。
以上、私の今までの知識や経験に基づいて10のポイントを挙げてみました。少しでも参考になれば幸いです。