喚語困難に対する言語訓練~キューの体系アプローチ~

喚語困難は、失語症の中核的な症状であり、軽度まで改善した人にも最後まで残る障害と言われています。

 

失語症者に対する言語訓練で、喚語困難に対するアプローチは欠かせないものですね。

 

喚語困難に対するアプローチは、

①理解面から改善を図る

②遮断除去法を用いる

③呼称やPACE(ペース)を行う

④ケースによっては機能再編成法を用いる

などが広く知られており、実践されているSTも多いかと思います。

 

今回は、有効なのにあまり知られていないのではないかと思われる訓練法を紹介します。

 

それは、Linebaugh(1990)が提唱した「キューの体系」アプローチです。

 

この「キューの体系」アプローチを用いた訓練では、1枚の絵カードについて、連続してキュー(手がかり)のレベルを上げていき、最終的に喚語できることを目指します。

 

あるキューで正しい反応が出せたら次の弱いキューに変えていきますが、もし新しいキューでうまくいかなかったら、もう一度元のキューに戻して練習します。

 

患者によってどのキューが有効かは異なるので、適切なレベルのキューを提示することが大切であるとされています。

 

では、具体的にそのキューと教示例を示していきます。

 

課題内容①刺激具体的な教示例

口頭のキュー

復唱

 

 

「ご飯」とおっしゃってください

 

文の穴埋め

 

絵+語頭音

 

いつも朝はお味噌汁とご○○です

 

文の穴埋め

 

 

いつも朝はお味噌汁と○○○です

 

叙述

 

 

 

 

どんなものか、思いつくことをなんでもおっしゃってください

 

叙述

 

 

絵+ジェスチャー

 

 

こういう風にするのは(お茶碗とお箸を持って食べる真似を見せる)なんですか

 

叙述

 

 

 

 

これをどうするのかおっしゃってください(「食べる」などの動詞部分を言ってもらう)

 

呼称これは何ですか

 

課題内容②刺激具体的な教示例

口頭のキュー+文字キュー

復唱

 

 

「ご飯」とおっしゃってください

 

文の穴埋め

 

 

絵+目標語の文字+語頭音

 

 

いつも朝はお味噌汁とご○○です

(文字で「ご飯」を提示)

 

文の穴埋め

 

 

絵+目標語の文字

 

 

いつも朝はお味噌汁と○○○です

(文字で「ご飯」を提示)

 

文の穴埋め

 

 

絵+目標語の文字+おとりの文字単語(2個)

 

いつも朝はお味噌汁と○○○です

(文字で「ご飯」「ケーキ」「うどん」を提示)

 

文の穴埋め

 

 

いつも朝はお味噌汁と○○○です

 

叙述絵+ジェスチャーこういう風にするのは(お茶碗とお箸を持って食べる真似を見せる)なんですか

 

上半分(課題内容①)の表は、口頭のみでキューを与える方法で、聴覚的理解が良好な場合に使用します。

下半分(課題内容②)の表は、口頭でのキューと同時に視覚的な文字のキューも与える方法で、より重度の患者に適しています。

 

Linebaughは、課題とキューの組み合わせの効果について、一般的には、叙述的描写→文の穴埋め→語頭音→復唱の順で容易になると述べています。

 

上記の表では、上から下に向かうほど弱いキューということになります。

 

絵カードを用いた呼称などで喚語できなかった場合、ヒント(キュー)といえば語頭音を提示することが多いと思います。

 

しかし、このアプローチ法にあるように「どんなものか、思いつくことをなんでもおっしゃってください」とあえて迂言を促す(叙述させる)ことや、その絵カードに関連する話や質問をすることは喚語を促すということにおいて、臨床上、とても有効性を感じています。

 

例えば、絵カードが『コーヒー』の場合、「○○さんは、よく飲んでいましたか?」や「砂糖やミルクは入れますか?それともブラックですか?」といった具合で、話題を振ったり、質問をしていくといった具合です。

 

今回は、このアプローチ法をまだご存じない方がいれば、普段の臨床の一助になるのではないかと思い、紹介させていただきました。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です