すべての音声障害が適応となる音声治療〜発声機能拡張訓練〜
脳血管障害(いわゆる脳卒中)後の音声治療として包括的音声治療というのがあります。
包括的音声治療というのは、系統的にプログラム化された音声治療技法であって、特に日常生活への般化に焦点を絞った治療法であることが特徴的です。
また、すべての音声障害が適応となるところも優れている点として挙げられます。
包括的音声治療には、発声機能拡張訓練(Vocal Function Execise)、Lessac-Madsen共鳴強調訓練、アクセント法があり、今回は個人的に最も使いやすいと思っている発声機能拡張訓練についてご紹介していきます。
発声機能拡張訓練は、以下の4つのステップに分かれています。
①喉頭筋のウォームアップ
②喉頭筋のストレッチ
③喉頭筋の収縮
④喉頭筋の筋力アップ
ここでいう喉頭筋は主に甲状披裂筋と輪状甲状筋を指します。
そして、すべてのスッテプにおける留意点としては、
1.発声時は口唇をやや前に突き出し、咽頭は開いている(拡がっている)こと ※イメージとしては、メガホンを逆にした形をつくること
2.発声時に過緊張(のどづめ発声)にならないこと
3.柔らかい(小さい)声であること
4.発声時に顔の前面(鼻梁)が振動する感覚を感じられ ること
の4点が挙げられます。
では、訓練内容を1つずつ説明していきます。
①喉頭筋のウォームアップ→発声持続時間の延長
時間を計測しながら、母音/i/「イ」で柔らかい(小さい)声で顔の前面(鼻梁)での振動を感じながら持続発声をさせます。
できるだけ長く発声してもらい、最長発声持続時間の延長を目指します。
②喉頭筋のストレッチ→音階上昇練習
/ho:/「ホオー」を発声しながら、低い音階からゆっくり音階を上昇させます。
途中で音声が途切れないように注意するが、音声が出ないところでも甲状披裂筋は伸びているのでそのまま続けるよう促します。
③喉頭筋の収縮→音階下降練習
音階上昇訓練と同様に高い音階からゆっくり音階を下降させます。
④喉頭筋の筋力アップ→特定の高さでの発声持続練習
成人男性では、C3、D3、E3、F3、G3、(ド、レ、ミ、ファ、ソ)成人女性と子どもでは(1オクターブ上の)C4、D4、E4、F4、G4のそれぞれの高さでできるだけ長く持続発声を行います。
以上、上記4つの発声練習をそれぞれの課題について2回ずつ毎日2回行います。
6〜8週間経過したところで、改善が認められれば、
(1)①〜④の練習を各2回、毎日1回
(2)①〜④の練習を各1回、毎日1回
(3)④の練習のみを2回、毎日1回
(4)④の練習のみを1回、毎日1回
(5)④の練習のみを1回、週3日
(6)④の練習のみを1回、週1日
とそれぞれ1週間を目安に段階的に回数を減らしていって下さい。
各練習の目的は、喉頭筋の筋力アップと筋相互のバランスの調整となります。
練習を継続することが改善に繋がりますので、患者さんを励ましながら、ばからしいと思っても続けることが大事であることを強調して下さい。
筋力は急にはつかないし、絶え間ない継続が必要であることを理解してもらうことが必要です。
繰り返しになりますが、STは、患者さんの発声時に必要以上の筋緊張やのどづめがないか、声質から判断することに留意しながら進めて下さい。
以上で発声機能拡張訓練のご紹介を終わります。
この訓練法は適応を選ばないので、意欲的な患者さんには特にいいのではないでしょうか。
より詳細に知りたい方は、下記の参考文献をご参照下さい。
【参考文献】
STのための音声障害診療マニュアル
監修:廣瀬肇
著者:廣瀬肇、城本修、小池三奈子、遠藤裕子、生井友紀子
インテルナ出版