喉頭挙上の筋力強化方法とその落とし穴
今回は嚥下機能、そのなかでも飲み込む力(咽頭クリアランス能)の改善を目的とした喉頭挙上の筋力強化方法とその落とし穴について書いていきます。
嚥下における喉頭挙上には、舌骨上筋群や舌骨下筋群が働いており、言い換えると舌骨上筋群や舌骨下筋群の筋力強化方法とも言えます。
では、早速代表的な方法をご紹介していきます。
1⃣開口運動
やり方
1.座位または背臥位をとる
2.最大に開口するように指示し、その状態で10秒保持し、10秒休憩する
3.5回1セットとし、1日に2セット行う
※顎関節症や顎関節脱臼がある対象者は禁忌
2⃣舌挙上運動
やり方
1.座位または背臥位をとる
2.舌を挙上し、舌背部を硬口蓋に強く押し付けるように指示する
3.力を抜いて、舌を元の状態まで戻す
舌挙上の反復運動も舌骨上筋群の強化として推奨される
3⃣前舌保持嚥下法
やり方
1.座位または背臥位をとる
2.舌を歯より前方に出し(約2cm以上)、歯で挟んで固定する
3.その状態で空嚥下を指示する
4⃣頭部挙上訓練(Shaker exercise)
やり方
1.背臥位で頭部・両肩を床面につけた姿勢とする
2.つま先が見えるまで、頭部のみをできるだけ高く上げるように指示する
3.頭部を上げた状態で1分間保持し、1分間休む。これ(挙上位保持)を3回繰り返す。
4.3に代わって頭部の上げ下げ(反復挙上運動)を30回繰り返す方法もある。
※バイタルサインの許容範囲内で上記負荷量の調節をする。
バイタルサインの許容範囲
・収縮期血圧が安静時より20mmHg以上を超えない
・収縮期血圧が180mmHg以上を超えない
・脈拍が安静時より20/分以上増加しない
・脈拍が120/分以上増加しない
変法として、
1.椅子または車いす座位の姿勢をとる
2.頭頚部の前屈運動を反復して行うように指示し、前屈運動に拮抗して徒手的に抵抗を加える
もしくは、頭頚部の前屈位を保つように指示し、伸展方向に徒手的に抵抗を加える
3.10回の反復運動を目安とする
もしくは、5~10秒を1セットとする
5⃣下顎引き下げ運動
1.背臥位か側臥位、もしくは座位をとる
2.下顎を引き下げる運動を支持し、その際にオトガイに軽く抵抗を加える
3.10回の反復運動を目安とし、運動強度は徒手抵抗により調整する
以上、大きく5つの方法を挙げましたが、すべての嚥下障害の方にこれらの方法を行うとよいかと言うとそうではありません!
適応となるのは、喉頭下垂か喉頭挙上不全が触診により認められる方だけになります。
※喉頭下垂や喉頭挙上不全の触診方法に関して詳しくは、別記事『喉頭下垂と喉頭挙上不全の触診による評価』をご参照ください。
喉頭下垂もしくは喉頭挙上不全が認められない方にこれらの方法を行うことは嚥下機能の維持(低下予防)としては有効ですが、改善を目的とする場合では余計な努力を強いているだけになってしまいます。
さらに、低栄養(TP6.0以下、ALB3.0以下)の患者さんに筋力トレーニングを行うことは、逆に筋量低下を招きかねませんので、控えた方がよいでしょう。
喉頭挙上の筋力強化は比較的エビデンスのある間接訓練であるため、安易に取り組みがちかもしれませんが、喉頭下垂や喉頭挙上不全(喉頭挙上範囲の減弱)、低栄養の有無を確認した上で効果的に取り組んで戴ければと思います。