頚部伸展予防や可動域の維持・改善に役立つストレッチの方法
頚部を屈曲(前屈)させるために頚部可動域の維持や改善を図ることは、嚥下においてとても重要なことです。
頚部の角度・ポジショニングは、咽頭クリアランス能=飲み込む力に直接、関連しているからです。
以前の記事『頚部前屈位と頭部前屈位の大きな違い』にも書いていますが、下顎下面と胸部との間が4横指分空いている状態が最も嚥下しやすい頸部前屈位だと私は考えています。
縦にしたこぶしを顎の下に当ててぴったり収まる(挟まる)ようにするとわかりやすいと思います。
さて、本題となる頚部ストレッチ法ですが、まず、ターゲットとする筋をはっきりさせることが重要です。
そのターゲットとなる筋はずばり、頭板状筋と頭半棘筋です。
ともに頚部を伸展(後屈)させる時に収縮する筋です。
つまり、この2つの筋をストレッチする(伸ばす)ことで頚部伸展の予防や頚部可動域の維持・改善を図ることができる訳です。
頭板状筋は側頭骨乳様突起から胸椎棘突起に向かい走行し、頭半棘筋は後頭骨上項線内側下部から胸椎横突起に向かい走行しています。
ざっくり簡単に言うと、2つとも後頭部の下の方から首筋を通って背骨(胸椎)にまで付いている筋ということです。
そして、この2つの筋のストレッチ法ですが、具体的には下記のようになります。
【頭板状筋のストレッチ~仰臥位の場合~】
0.対象者の頭部後方に立つ
1.頭部を60~70°回旋する
2.ストレッチする側の後頭骨と側頭骨の境に手のひら(手掌部)を添える
3.そのまま頭頂部を斜め上方に押し込む
【頭板状筋のストレッチ~座位の場合~】
0.対象者の斜め前方に立つ
1.頭部を60~70°回旋する
2.ストレッチする側の後頭骨と側頭骨の境に手を添える
3.頭部を斜め手前に引き込むように頭部を圧迫する
【頭半棘筋のストレッチ~仰臥位の場合~】
0.対象者の頭部後方に立つ
1.頭部を約5°回旋する
2.後頭骨上部に手掌を当てる
3.もう一方の手でストレッチする側の肩が上がらないよう軽く抑え、頭部を立てるように頸椎を屈曲する
【頭半棘筋のストレッチ~座位の場合~】
0.対象者の後方に立つ
1.頭部を約5°回旋する
2.後頭骨上部に手掌を当てる
3.もう一方の手で体幹が前方に傾かないよう肩を固定し、頭部を押し込むように頸椎を屈曲する
それぞれ、仰臥位と座位の場合のやり方を示していますので、やりやすい方を選択してください。
また、舌骨上筋群や舌骨下筋群は、筋腹を指で圧迫して伸ばすダイレクトストレッチという方法を用います。
これらの筋群は嚥下時の喉頭挙上に作用する拮抗筋群になりますので、ストレッチすることで、スムーズな喉頭挙上の一助になると考えられます。
ちなみに、一般的に肩こりなどで首筋を伸ばす時は僧帽筋をほぐしたり、伸ばすイメージですよね。
特に僧帽筋の上部は、首筋から肩にかけて付いていますので、肩もみの定番箇所です。
しかし、実際は僧帽筋は肩甲骨の運動にのみ作用している筋になります。
よって、僧帽筋のストレッチは、頚部可動域の維持・改善目的としてはあまり意味がないと思われます。