義歯と咀嚼とスピーチの関係性
唐突ですが…
無顎歯の人が義歯をつける(総義歯)と口腔容積は狭まるか、拡がるかわかりますか?
私は『狭まる』と思ってたんですが、実は逆だったんですね。
歯茎と歯茎を噛み合わすより、奥歯と奥歯を噛み合わせる方が咬合高径が高くなるから、口腔容積は大きくなります。
逆に言うと、義歯のない状態が長期化すると狭小化した口腔内で、舌の運動範囲が制限されてしまうという弊害もあります。
無歯顎状態が長期に及んで、廃用により舌の運動範囲が制限されてしまった方に急に義歯を作って装着すると、拡がった口腔容積に対応出来ず、送り込めない(舌が口蓋に届かず食物を押し込めない)なんでことも起こり得ます。
上記に加え、義歯を装着しないことで、歯茎の痩せにより義歯が合わなくなることや口唇閉鎖に関わる口輪筋の筋力低下にもつながるので、たとえ咀嚼を要しない状態にあったとしても義歯を調整し、装着しておくことが薦められます。
また、『しゃべっているから、食べる練習にもなっている』と思われがちですが、スピーチに要する筋力と咀嚼に要する筋力とは違って、咀嚼能力を維持しようと思ったら、しゃべっているだけでは足りません。
「スピーチに要する筋力は、最大筋力の約40%であり、咀嚼に要する筋力より小さい」と文献にあります。
ご高齢の方で、舌の動きが低下していても全然聞き取れる程度に喋れる方は多いですよね。
逆に言えば、ディサースリア(運動障害性構音障害)の改善に食事時の咀嚼・食塊形成が寄与することは大いにあると思われます。
食事は噛んで食べた方が味覚を感じて美味しいですし、構音機能に加え、認知機能や食思の維持や改善にもつながるものと考えます。
摂食・嚥下リハビリテ―ションでは、常に咀嚼を意識して介入していきたいものです。