寝たきりの弊害と離床の効用
寝たきりが身体に悪影響を及ぼすことは誰でも知っていると思いますが、「なぜ寝たきりが身体に悪いのか?」に明確に答えられる人は意外と少ないのではないでしょうか。
今回は、寝たきりの弊害について詳しくみていくことで、離床の効用を明らかにしていきます。
寝たきりの弊害 その1.呼吸器への影響
FRCという言葉をご存じでしょうか?
FRC=機能的残気量であり、「自然に呼気を行った後、肺内に残っている残気量」のことです。
FRCが多ければ、ガス交換に参加する空気の量が多いため、酸素化に大変有利です。逆にFRCが少ないと酸素化は極端に悪くなります。
全肺気量(TLC)や残気量(RV)は不変なのに対して、FRCは姿勢によって大きく変化し、立位から臥位になると半分近く減少してしまいます。
これが、寝たきりによる呼吸への悪影響の一つ目です。
二つ目の悪影響は、臥位姿勢だと腹腔内臓器が頭側へ移動するため、背側横隔膜の上に乗る形となり、横隔膜運動を妨げてしまうことが挙げられます。
座位や立位なら、腹腔内にある臓器(腸管など)は重力の影響を受けて下がり、横隔膜運動を妨げません。
また、臥位姿勢では床面に接した胸郭は広がりにくいため、胸郭運動の妨げにもなります。
寝たきりの弊害 その2.循環器への影響
臥床によって利尿作用が促進され、常に軽い脱水状態となります。
そのメカニズムは、次のとおりです。
重力からの開放で、体液の上方シフト(下半身にあった血液が上半身へと移動)
⇒中心静脈・頸動脈・大動脈弓の厚受容器を刺激
⇒生体は体液を過剰と判断
⇒交感神経抑制・利尿ホルモン分泌
⇒利尿促進
⇒軽い脱水状態
この軽度の脱水状態(水分バランスが負の状態)で、上体を起こすと血圧が急激に低下し、失神してしまいます。
そこで心肺圧受容器反射や動脈圧受容器反射などによって、生体は血圧低下を防ごうとしますが、それでも防ぎきれないと失神が起こります。
失神は、単純に「下半身に血液が移動することで起きる」わけではなく、あくまで循環器血液量全体の減少が基礎にあって引き起こされるのです。
寝たきりの弊害 その3.骨格筋への影響
寝たきりになると筋力が低下します。
特に脊柱起立筋群、腹筋群、大殿筋・中殿筋、大腿四頭筋、下腿三頭筋といった抗重力筋は収縮する機会を失うため、他の筋肉に比べて優位に筋力低下を起こします。
寝たきりの弊害 その4.骨への影響
寝たきりによって骨ももろくなります。
これは骨への荷重がなくなるため、リモデリング機構が働かなくなるためです。
骨のリモデリング機能は、
骨に対する重力負荷⇒骨の微細損傷⇒骨の再生⇒骨強度の維持
といったサイクルで循環するからです。
寝たきりの弊害 その5.消化器への影響
寝たきりによる消化器への影響は大きく3つあります。
1つ目は、循環血液量が減少し、交感神経が優位となり、腸管の蠕動運動が抑制されることです。
2つ目は、臥床により、精神的ストレスが発生し、そのストレスが副交感神経の働きを抑制し、腸管の蠕動運動が抑制されることです。
また、ストレスにより自律神経系が不安定になると胃酸の分泌過多(胃潰瘍の原因)や抑うつ傾向による食欲減退にもつながります。
3つ目は、臥位姿勢では重力による食塊移動の役割が除かれるため、食塊が消化管内に滞留する時間が長くなり、空腹感を生じず、食欲の減退へとつながります。
また、胃内に食塊が滞留し、逆流性食道炎が起こりやすくもなります。
以上、寝たきりによる弊害を詳しくみていきました。
これらのことから、離床は呼吸や循環、骨や筋、さらには精神面にも有効であることがわかります。
しかし、離床はその適応を誤ると、逆にマイナスの効果が現れる可能性もあります。
次回は、離床のリスク管理として、開始基準と中止基準を示していきますので、併せてご参照ください。