SLTAの言語情報処理 Part8:文レベルの言語情報処理
SLTAの言語情報処理 Part8。
今回は、最後に文レベルについて解説し、このシリーズを締めくくりたいと思います。
文の理解に関わる2大要因は、聴覚的把持と構文の理解です。
まず、聴覚的把持(聴覚性言語性短期記憶)ですが、これは、文を理解する(情報処理する)間、その文を覚えておく(把持しておく)必要があります。
次に構文理解ですが、これは、大きく分けて下記の3つ項目から成ります。
①パーシング・・・文構造の解析 内容語と機能語(助詞と助動詞)
②マッピング・・・文の構成素(名詞+格助詞)と意味役割との対応
③その他・・・用言(形容詞、動詞等)の活用から時制(現在形、過去形等)、態(能動態、受動態)、相(完了形、進行形等)といった事態の状況を解析
以上の3つですが、1つずつをもう少し詳しく解説していきます。
①パーシング・・・正しい文の配列をチェック
正しい日本語の文になっているか、例えば、英語では『助詞+名詞』となるところが、日本語では『名詞+助詞』の順番になっているかなどを解析します。
例)鉛筆を百円玉の横において下さい→鉛筆/を/百円玉/の/横/に/置いて/下さい
②マッピング・・・名詞+格助詞が文中でどのような役割を果たすのかを解析
例えば、「鉛筆を」となれば、鉛筆が動作の目的語になるということがわかるなどです。
③その他・・・用言の活用や時制、態、相といった事態の状況を解析
用言の活用形・・・例)「置く」→「置いて」
時制・・・例)「する」(現在形)→「した」(過去形)
態・・・例)「取る」(能動態)→「取られる」(受動態)
相・・・例)「した」(完了形)→「している」(進行形)
文レベルの理解では、これまで認知神経心理学的モデルを用いて解説してきた内容語(名詞、形容詞、動詞など)や機能語(助詞、助動詞)といった音韻や単語レベルの理解に加え、上記の聴覚的把持と構文の理解ができて、はじめて文全体の正確な内容理解が可能となります。
次に文の産生について解説していきます。
文の産生は、大きく分けて下記の4つの項目からなります。
①意味を構成する重要な要素(意味素)を切り出す処理
②語想起(内容語と機能語)
③日本語の構文規則に則って配置
④用言の活用形から時制、態、相といった事態の状況に合わせて音韻を変形
まず、例えば「女の人がお茶を飲んでいる」場面を表した絵からは、「女の人」「お茶」「飲む」といういくつかの重要な構成要素を切り取って意識化する必要があります。
ここの段階が上手くいかないと「この女の人は髪が長いです」とか「指輪をはめています」などそれ自体は間違いとは言えないけれど、明らかにその情景画の叙述としては不適切なことが起きます。
これは、臨床の現場ではときどき見られることです。
次に、想起した内容語や機能語を日本語の構文規則に則って配置していきます。
日本語の構文規則は、例えば、「女の人がお茶を飲む」といったように「動作主ー動作対象ー動作」が基本となるとか、名詞の後に格助詞が配置されるなどです。
そして、用言の活用や時制、態、相といった事態の状況に合わせて音韻を変形させることで、日本語として正しい文の産生に至ります。
以上、今回は文レベルの言語情報処理を解説しました。
これで、SLTAの言語情報処理シリーズは終了です。