SLTAの言語情報処理 Part7:『書く』の言語情報処理
今回は、SLTAの言語情報処理Part7『書く』編です。
認知神経心理学的モデルは、今回もこのシリーズお馴染みのモデル(下の画像)を使用していきます。
では、早速、一つずつみていきます。
【漢字単語の書字】
非音韻ルート
①絵→物体認知→意味システム→音韻出力レキシコン→正書法出力レキシコン→文字操作→書字
②絵→物体認知→意味システム→正書法出力レキシコン→文字操作→書字
重度の失語症者において、山の絵を見て「やま」という音韻は思い浮かばなくても、非音韻ルート②の方で漢字の「山」をダイレクトに想起し書字できることが少なからずみられます。
『煙草(たばこ)』、『七夕(たなばた)』、『老舗(しにせ)』など、音韻と綴りの対応が例外的な漢字単語は音韻を一つずつ文字に変換するという音韻ルートでは正しい書称に至れないため、必ず、この非音韻ルートを使用すると想定されます。
【仮名単語の書字】
音韻ルート
絵→物体認知→意味システム→音韻出力レキシコン→音韻操作→音韻-文字変換→文字操作→書字
【漢字単語の書取】
非音韻的語彙ルート
語音→聴覚音韻分析→音韻入力レキシコン→意味システム→音韻出力レキシコン→正書法出力レキシコン→文字操作→書字
非音韻的語彙ルートは、出力(書く)時に音韻の想起を伴わず、直接的に文字列全体を想起し、書字に至るルートです。
【仮名単語の書取】
音韻的語彙ルート
語音→聴覚音韻分析→音韻入力レキシコン→意味システム→音韻出力レキシコン→音韻操作→音韻-文字変換→文字操作→書字
音韻的語彙ルートは、出力(書く)時に音韻を想起・配列した上で1モーラずつ文字に変換し、書字に至るルートです。
非音韻的語彙ルート、音韻的語彙ルート共に聴覚的理解と書称が合わさった形をしています。
【仮名1文字の書取】
非語彙的音韻ルート
語音→聴覚音韻分析→音韻操作→音韻-文字変換→文字操作→書字
書字の障害では、聴覚的理解での過程に加え、語彙の想起、語彙に対応する漢字や仮名の想起、想起した音韻を文字に変換する過程での誤りがあります。
また、書字では失行性失書といわれる書字運動プログラムの障害もあり得ます。
これまでのSLTAの検査結果や誤り方の質的な評価を行い、また、必要に応じてSALAなどの掘り下げ検査も行い、認知神経心理学的モデルのどの段階で誤っているのかを探っていくことが、効果的な訓練に繋がります。
以上、SLTAの言語情報処理を認知神経心理学的モデルを用いて解説してきましたが、Part1でもお伝えした通り、認知神経心理学的モデルは単語レベルの処理を前提としていますので、次回は文レベルの言語情報処理について解説します。