SLTAの言語情報処理 Part1:認知神経心理学的モデルの前提
失語症の患者さんを前にしたときに『損なわれた言語機能を回復させるための最適な治療方法を立案する』というのが、言語聴覚士の大切な存在意義の一つですね。
そのためには、失語症状(現象)の背景にある障害メカニズムを探ることが重要となります。
その障害メカニズムを探る上で、認知神経心理学的な考え方は避けて通ることはできないものと思われます。
ということで、認知神経心理学的モデルを用いたSLTA(標準失語症検査)の言語情報処理をこれから数回のシリーズに渡って書いていきます。
今回は、認知神経心理学的モデルの前提についてです。
認知神経心理学的モデルは、言語情報処理を独立した処理単位(モジュール)とそのリンクとして表現しており、単語レベルの処理過程を示しています。
では、各モジュールがどのような言語情報処理を行っているのかのを具体的に示します。
※下の認知神経心理学的モデルを参照し、ご確認ください。
聴覚音韻分析・・・音響分析→音韻照合
『音響分析』は、音響特性(母音の弁別に必要な周波数特性[フォルマント構造]や子音の知覚に必要な時間的変化に関する特徴)の分析をします。
『音韻照合』は、いわゆる五十音(約110あると言われている)と聞いた音を照合します。
『照合』とは、文字通り、脳内に記憶しているもの(音韻、文字、語彙、意味)と『照らし合わせる』という意味です。
文字識別・・・形態認知→文字照合
視覚から文字の形態を認知し、知っている(記憶している)文字として認識します。
レキシコン・・・脳内の辞書といった意味で、語彙照合を行います。
『音韻レキシコン』は音韻列の辞書、『正書法レキシコン』は文字列の辞書といった意味です。
ここで、音韻列や文字列を脳内に記憶している語彙と照らし合わせます。
※それぞれ入力と出力の過程があり、音韻では『聞く、話す』に、正書法では『読む、書く』に当てはまります。
意味システム・・・意味記憶とほぼ同義で、意味照合を行います。
語彙の意味を照らし合わせ、言葉(語彙)が示す内容を理解します。
音韻操作(音韻出力バッファ)・・・音韻想起・配列/把持
『音韻操作』は、レキシコンで語彙照合した後に、語彙を構成している音韻を想起(選択)し、その音韻を配列し、発語までの間、把持(一時記憶)しておく過程です。
※把持の機能を特に強調してバッファと言ったりもします。
文字操作(文字出力バッファ)・・・文字想起・配列/把持
『文字操作』は、語彙を構成している文字を想起(選択)し、その文字を配列し、書字までの間、把持(一時記憶)しておく過程です。
文字ー音韻変換、音韻ー文字変換はそのままの意味合いで、文字から音韻、音韻から文字への変換を示します。
(発語失行)は構音プログラミング、(運動性構音障害)は構音実行の過程を示します。
以上、認知神経科学モデルを用いた言語情報処理をみていくにあたり、必要な基礎知識を示しました。
次回より、SLTAの検査項目を一つずつこのモデルに当てはめてどのような言語情報処理がなされているかをみていきたいと思います。