咽頭アイスマッサージの意義
咽頭のアイスマッサージは、STや摂食機能療法を行う看護師さんなどにはお馴染みだと思いますが、他の医療・福祉関係者では知らない方も多いと思います。
水に浸して凍らせた大きめの綿棒などを用い、嚥下反射が惹起されやすい箇所(奥舌、口蓋弓、軟口蓋、咽頭後壁など)を擦るように刺激するというものです。
その際、凍傷を防ぐため、凍らせた綿棒を氷水にほんの少しくぐらせてから刺激します。
見かけたことや存在自体は知っていたとしても何のためにやってるのかはよくわかっていない方も多いと思います。
家人や看護師さんに質問されることがありますし、STの学生や新人STも何のためにするのかよくわかっていない場合があるので、今回は、その意義について書いていきます。
咽頭アイスマッサージは…
①冷たい温度刺激
②綿棒による物理的刺激
③水による化学的刺激
場合によっては
④レモン果汁を入れるなどによる味覚刺激
これらの刺激の相乗効果によって、嚥下反射を生じさせる狙いで行っています。
(一部除いて)嚥下訓練は、実際に嚥下を起こさなければその機能を改善できないと考えられるので、水分や食物をその人に合わせて(極力誤嚥しないように)提供して実際に摂食・嚥下してもらうことが要となります。
水分や食物を経口摂取すると必ず誤嚥する状態でもこの咽頭アイスマッサージでは水分や食物を直接的に用いない為、誤嚥の心配がなく嚥下訓練を行えるのが最大のメリットだと思います。
ここで、『唾液は常に嚥下しているから、食物誤嚥が必発な人には、自然な唾液嚥下だけでいいんじゃないの?』と疑問に思う方もいるかと思います。
確かに唾液嚥下は、無意識的に常時行われますが、絶食状態が長期化すると唾液の分泌は極端に減少していきます。
(健常者でも1日の内、睡眠時の唾液分泌は減少します。)
また、常温の体液である唾液は、相対的に刺激強度が弱いので、嚥下が惹起されにくいのです。
嚥下障害では、咽頭感覚が低下していることが多いですから尚更となります。
(健常者でも睡眠時には唾液誤嚥すると言われています。)
そこで、咽頭のアイスマッサージ(刺激)で、嚥下反射を意図的に誘発される訳です。
例えば、15分かけて10回程度の嚥下反射を惹起させられたとしたら、ゼリー1個分を飲み込んだくらいの嚥下運動ができたかなとか…
それで、準備期や口腔期にはほとんど働きかけられていないので、その分、口唇や舌の運動を追加して取り入れようとか…
そんな感じで食べる擬似訓練をして、廃用を防いだり、覚醒や全身状態・栄養状態、体力や摂食・嚥下機能が向上してくるまでを凌いでいくイメージです。
また、咽頭アイスマッサージには、即時的かつ短期的に咽頭反射の惹起遅延を軽減する効果がある(長期的な効果はなし)とされているので、実際の食事(経口摂取)前に取り入れることで、誤嚥を軽減する効果もあります。
そんな訳で、非常に地道ですし、これだけやっていれば良いといったものではないですが、目的意識を持って摂食嚥下リハビリテ―ションに取り入れれば、十分に意義のあるものだと思います。