発話失行の判別方法
今回のテーマは、発語失行(anarthrie、aphemie、純粋語唖)の判別方法です。
まず、発語失行の特徴を一通り羅列していき、その後、詳しく説明していきます。
【発語失行の特徴(純粋)】
①構音運動の異常が主で、音韻性の謝りが主ではない
②誤り方の一貫性が乏しい
③構音の複雑さに影響を受ける
④構音の長さに影響を受ける
⑤随意的発話と自動的発話に差がない
⑥自発話、復唱、音読間で構音に差がない
⑦音節化構音のため、非流暢な印象を生じる
⑧探索行動、発話開始の遅れ、音や音節の繰り返しがみられる
⑨口腔顔面失行は初期に合併することが多い
⑩構音の誤りは個人差と回復過程により異なる傾向がある
※発語失行の特徴(純粋) 紺野,1986より抜粋
まず、①の特徴ですが、発語失行はあくまで構音プログラミングの障害であり、その結果、音韻性の誤り(≒音韻性錯語)が生じることはあってもそれが主体ではありません。
例えば、/b/が/d/に置換している場合、まずこのような構音器官間の誤りは構音障害(ディサースリア)では生じません。
失語症や発語失行では、どちらもこのような誤りは生じ得ますが、音韻性の誤りが主体の場合は、「音韻の選択・配列・把持(バッファ)」段階での誤りと考えられ、これは失語症状に当てはまります。
②の「誤り方の一貫性に乏しい」という特徴は、発語失行と構音障害(ディサースリア)との鑑別に有効です。
構音障害は構音器官の麻痺による構音の誤りであることから、その誤り方に一貫性がみられます。
例えば、鼻咽腔閉鎖不全があれば、その結果として開鼻声や鼻音化による音の誤りが一定してみられます。
しかし、発語失行では、例えば舌の運動能力が十分あるにもかかわらず舌音を誤り、しかもその音をいつも誤るわけではなく、ときに正しく発音できることもあります。
また、例えば/t/が、ある時は/b/に、またある時は/n/になるなど、どのように誤るかも一貫しておらず、二重の意味で一貫性がありません。
発話失行は、③と④の「構音の複雑さや長さに影響を受ける」という特徴もあり、ディアドコキネシスは発話失行とディサースリアの違いを際立たせてくれる手軽な検査の一つになります。
発話失行では、単音節の繰り返しは比較的速くスムーズに行えるのに、多音節になると急に発話速度が低下したり、音の誤りが頻発したりするのに対して、ディサースリアではこのような差はみられません。
⑤の「随意的発話と自動的発話に差がない」は、いわゆる失行の特徴である「随意性と自動性の乖離」に当てはまっており、発語失行も同様に考えている方も少なくないと思います。
しかし、実は、発語失行そのものの特徴としては随意的発話と自動的発話に差はありません。この差は失語症の影響によって生じていると考えられます。
そのため、⑥の「自発話、復唱、音読間で構音に差がない」という特徴にも繋がります。
⑦の音節化構音とは、続けてスムーズに構音することが困難なゆえに音節毎にポーズを入れたり、母音を引き伸ばして話すことです。
この音節毎に区切って話す音節化構音により、発話速度の低下やピッチの平板化といったプロソディの障害が生じます。
⑧は失語症、特に伝導失語タイプにも特徴的ですが、発話失行でも認められる特徴となります。
⑨と⑩の特徴に関してはそのままで、特に追加の説明はありません。
以上、今回は発話失行を判別するためにその特徴をできるだけ整理してお伝えしてみました。
実際の患者さんは、発話失行単独の症状だけではなく、構音障害及び失語症を伴っていることがほとんどだと思います。
そのなかで、発話症状を正確に捉えることは容易ではありませんが、今回の内容が少しでもお役に立てれば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!